1980年代のスポーツ界を代表するスーパースターといえば、カール・ルイスさんをあげる人が多いでしょう。陸上競技の短距離走と走幅跳の選手として、オリンピックで金メダル9個、世界陸上で金メダル8個を獲得しました。2つの種目で世界記録を達成するなど、まさに無敵の選手でした。現在は、米国ヒューストン大学の陸上部コーチです。
先日、朝日新聞(2021年2月2日付)を読んでいたら、カール・ルイスさんの記事に出会いました。コロナ禍で苦労している若いスポーツ選手たちへの助言が紹介されていました。その中で、とくに私が関心を持ったのは次の言葉でした。
「私は選手に『基本に注力しなさい』と言い続けています。基本はいつもそばにある。一生懸命練習して、しっかり休みを取り、正しく栄養を摂取する。シンプルなところは変わらない」。
練習、休息、栄養は、スポーツ選手が体力や技術を向上させるために欠かせないことです。これらをおろそかにして、上達することはありません。
私は「なわとびサイエンス」の第1回目に運動後の休み方を紹介しました。なぜ、1回目に休み方を取り上げたかと言うと、休みたがらないスポーツ選手が多いからです。
カール・ルイスさんが言う「しっかり休みを取り」は、「しっかり睡眠をとり」と言うことです。運動で生じた疲労を取り除く最善の方法は、熟睡です。運動という刺激によって痛められた体が熟睡によって回復するとき、体力などが向上するのです。なわとびが上手になりたいなら、練習の後の熟睡も必要なのです。
熟睡するためには、次のことを守るのが良いと言われています。
①目覚めたら日光を浴びる。日光を浴びると午後9時ごろから眠気を起こさせるメラトニン量が増える。
②就寝前に入浴して体温を上げておく。体温が下がるときに眠気が起きやすい。
③夕食後、カフェインの多いコーヒーやお茶を飲まない。カフェインは眠気を妨げる。
④就寝前はリラックスする。脳が興奮状態だと眠れない。
⑤夜食をとらない。夜食は眠りやすくさせるが、睡眠の質を下げる(熟睡できない)。
⑥夕食後、部屋の明るさを落とす。夜間の光は眠気を起こさせるメラトニンの分泌を抑える。
カール・ルイスの助言にあるように、熟睡することのたいせつさを忘れないようにしましょう。
湯浅景元(中京大学名誉教授)