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(16)「がんばる」とは?

 ほとんどの人たちが当たり前と思っていることを研究すると、思いがけない貴重なことを発見することがあります。東京大学教授であった猪飼(いかい)道夫(みちお)先生たちが1961年に行った研究もそうでした。
 最大の努力で力を出すことを何回も繰り返したらどうなるでしょうか?力を出す回数が増えるにつれて筋力は低下していくはずです。こんなことは、誰でも想像できます。この誰もが当たり前と思っていることに注目して、猪飼先生たちは研究を進めることにしたのです。
 猪飼先生たちは、2秒ごとにひじを全力で曲げる運動を繰り返し行わせて、ひじを曲げるときの力を測りました。予想通り、図1のようにひじを曲げる回数が増えるにつれて筋力は低下しました。



 ここで研究を終わらせないで、もう一歩深く追求したところが、猪飼先生らのすごいところです。。
 猪飼先生たちは、100回目、200回目、300回目に「エィ!」と大きなかけ声とともに全力でひじを曲げさせました。その時の筋力は図2の赤丸のようになりました。
 100回目に「エィ!」とかけ声をかけながら力を出すと、筋力は1回目とほとんど同じになりました。200回目でも300回目でも、かけ声を出しながら発揮した筋力は1回目とほぼ同じレベルに戻りました。



 全力を出す回数が増えれば筋肉は疲労して、筋力は衰えるはずです。「エィ!」とかけ声を出しても、筋肉が疲労していれば筋力がもとに戻るはずはありません。これが、多くの人の考えです。
 猪飼先生たちは、次のよう考えました。
 「エィ!」とかけ声をかけながら出した筋力が1回目と同じであったのは、筋肉そのものが疲れていなかったからである。では、かけ声をかけなかったときの筋力は、図1のように回数が増えるにつれてなぜ低下したのか。それは、心理的ながんばりが低下して、「もうだめだ」とか「もう続けたくない」という気持ちが強くなったからである。「かけ声をかけながら力を発揮する」と、その時だけ、やる気が回復し筋力が元に戻るのである。
 なわとびを繰り返していると、だんだん跳べなくなってきます。この場合も、足の筋肉などが疲れて跳べなくなっているのでありません。「やる気」が弱まって全力を出そうという命令が脳から筋肉へ届けられなくなっているのです。そんなとき、「あと一がんばり」と自分に言い聞かせたり、仲間から「がんばれ」と声かけをしてもらうと、「やる気」が一時的に回復して跳ぶことができるようになります。
 「がんばる」というのは、「やる気」を戻すことです。このことは、スポーツだけではなく、勉強でも仕事でも、いろいろな場面で大切なものでしょう。

湯浅景元(中京大学名誉教授)



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